庄川のアユ

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 庄川の夏の味覚にアユ(鮎)がある。食通が塩焼きの身を箸で押さえ、すっと骨を出してかぶり付く…といった大振りではなく、頭からそのまま食べられる小振りの魚体が特長だ。わずかな水アカ(石に付いた藻)を食べ、清流を遡って来た逞しさが身上。ワタ(内臓)の苦味と、スイカを思わせるような香りが口いっぱいに広がる。香魚たるゆえんである。
 大正期以降、全国の河川にダムが作られ、アユをはじめ川魚が激減した。岐阜県旧荘川村(現・高山市)に源 流を持つ庄川もご多聞に漏れず、小牧、御母衣(みほろ)ダムなど電源開発が行われたが、上流域の自然がそのまま残されたことがら、その清流は今も 変わっていない。清冽な水と速い流れに培われたアユの野趣あふれる味は、昔と同じだ。

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 同じ砺波平野でも、西側を流れる小矢部川は、庄川水系の用水などが流れ込むため、アユより、ウグイやヤツメウナギ、モクズガニなどが知られている。
 庄川が砺波平野に流れ込む旧庄川町(現・砺波市)は、飛騨山地で切り出される木材の集散地であった。住民の多くが、流送と呼ばれる木材の川流しに従事した。源流域の旧荘川村や郡上八幡町(現・郡上市)まで足を伸ばす業者も多く、木工業も 盛んだった。昭和初期には遠く樺太まで出かけた者もいたという。散居村の平野部とは、住民の気風・気質もやや異なっていた。
 庄川のアユと住民の暮らしについては、地元で長く地方新聞記者を務めた上田千之さんの小説集 「アユの川」(近代文芸社刊)などに詳しい。「知られざる魯山人」で大宅壮一フィクション賞を受けた作家・写真家の山田和さん(砺波市出身)の 「瀑流」(文芸春秋社刊)も、小牧ダム建設に伴う流木争議と木材業者らの姿を、それに関わった新聞記者の目を通して雄大なスケールで描いている。

■庄川のアユ料理
 塩焼きのほか、そろばん(アユの酢の物)、てんぷらなどもおいしい。庄川で取れたサケやイクラを出してくれる店もある。

■庄川の珍味「うるか」
 庄川のアユを使った珍味に「うるか」がある。「白うるか」と「黒うるか」の2種があり、「白」はわずかしか採れないアユの卵だけを塩漬けにしたもの。淡白な味わいはまさに絶品。これに対し「黒」は、アユを骨ごとすり潰して塩漬けにしてある。骨のざらざらした舌触りと塩味があいまって、野趣あふれる味わいだ。いずれも、酒の肴に最適。辛口の地酒とともに味わえば、至福の時が待っている。