となみ野の地酒

 米どころの砺波地方には酒造メーカーが多い。庄川の清冽な伏流水とあいまって、灘伏見にも勝るとも劣らぬ銘酒ぞろいだ。
かつて、酒造りは一種の賭けだった。秋に米を買い集め、雪とともに仕込み、春から秋にかけて売る。うまくできれば大もうけだが、そうでなければ大損。資金力も含め条件に恵まれた酒蔵だけが生き残った。
砺波地方で最も規模が大きいのは、砺波市の立山酒造と若鶴酒造。ほかに南砺市の旧福光町には 成政酒造。そして同市の旧平村に三笑楽酒造がある。規模は小さいが太刀山の吉江酒造(砺波市)、若駒酒造場(南砺市旧井波町)も根強いファンがいる。

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 “幻の酒”として知られる立山酒造は文久元年(1861年)の創業。庄川に近い同市中野で素封家が始めた。明治33年(1900年)のパリ万博に出品するなど、全国で高い評価を得て現在に至る。端麗辛口で“富山の酒”の代表選手だ。

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 これに対し、どちらかといえば甘口といわれる若鶴酒造は文久2年(1862年)、同市三郎丸の創業。大正 期以降、東京、樺太まで販路を伸ばし、キリンビールの特約代理店契約を獲得、異例の急成長を果たした。戦後は焼酎、合成酒、ウイスキーなど非清酒 部門にも進出。関連会社に北陸コカ・コーラなどを持つ。愛好家を集めて酒楽塾を開講するなど、日本酒の魅力を発信している。
 旧福光町の成政は、仕込み酒のオーナー制度「成政トラスト」で愛好家の出資による吟醸酒作りも行い、ファン拡大に努めている。三笑楽は平家落人の隠れ里、世界遺産・合掌集落に伝わる秘酒といった趣だ。
いずれも富山湾の海の幸、となみ野の野山の恵みにぴったりの、味わい深い逸品ぞろいだ。